2015/5/22

7925 小雨降る寒い春です改札の外にあなたを見つけるまでは
7924 ほころんだ笑顔に淡くほぐされてこのひとだった胸に住むのは
7923 歩き出すその手が少し遠いから鞄を撫でるだけの左手
7922 前に乗るあなたが急に手のひらを重ねてゆらぐエスカレーター
7921 たかが手がふれてるだけだ心臓がまるごと浮いて飛び立ちそうだ
7920 窮屈に身を寄せ合って一つしかないわけじゃない傘を分け合う
7919 雨のなか寄り添い歩く初めての肩をぶつけた夜を浮かべて
7918 あの日からもう一年と幾月を遠いとなりで生きてきました
7917 カラオケは五十分待ち 外は雨 ふたりでいられるため選ぶ場所
7916 繰り返し繰り返し名を呟いていつかの街に探す古ビル
7915 見覚えのある部屋スーツを脱ぐあなた湯を張るわたし流れるように
7914 くちびるが突然思い出してゆく確かな熱に痺れを添えて
7913 香水はつけない肌をつよくつよく擦り寄せきみの匂いがほしい
7912 体液が押し出されるってほんとうだうずめられれば目からこぼれて
7911 これほどに空っぽな身を思い知る隙間のすべてきみで満たせば
7910 きっと今いちばんきれい内側に確かなすきを注がれている
7909 手をつなぎ歩けることのしあわせを知っているから奇跡は芽吹く
7908 食べたことないもの食べに行こうって初めてを無くしていくように
7907 金色のビールは砂漠に降る雨のようだふたりで杯を鳴らせば
7906 鉄板であなたが焼いて取り分けてこれはひとつの手料理だろう
7905 酔うほどに愛しさばかり増してゆき壊れてしまえふたつの時計
7904 何もかもおいしい何もかも楽しい いま握られた手だけさみしい
7903 テーブルを挟んできみはくちづける濡れた頬には無言のままで
7902 ふたりなら降らせたくない雨ばかり降らせてしまう笑っていよう
7901 花冷えに震える肩を抱き寄せてくれる恥ずかしがりやのくせに
7900 「公道でこんなことする人だった?」「公道じゃなきゃこれで済まない」
7899 聖域とふざけてつけた名を抱いて今日もしずかなアーチは並ぶ
7898 想いなら同じ 離れる瞬間を引き伸ばしたい手のひらがくる
7897 くちびるにふれれば顔が見たくなり見ればふれたくなる以下ループ
7896 何度でも何度でも言うことばではひとつも伝えきれないことを
7895 次はいつ触れるのだろう約束のできないひとに預ける重さ
7894 ねぇ家に帰ろうか一緒の家に 叶わないことばかりほしくて
7893 さよならを言う簡単なことだけがいつもできない 手が温かい
7892 ふわふわと頭を撫でる「それじゃあ」と言い出せなくてうつむくひとの
7891 賑やかな人の流れに紛れ込む微熱と雨を内に湛えて
7890 思い出すばかりの夜のコンコースここで初めて触れられたとか
7889 「あの時は抱きしめてくれなかったね」「うるさい」だからこうしているの
7888 おしまいを刻み込むよう手の甲に小さなキスをくれるおしまい
7887 階段の先で何度も振り返るひとを追う目にまた春の雨

KohagiUta

Kohagi Chihara|tanka & design|

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