2016/4/20

8829 神戸線ホームいちばん隅っこの黒いベンチで空を見おくる
8828 少しずつ近づいてくる とりあえず、あ、あ、声を放つ練習
8827 堪えきれず振り向いてしまう懐かしいいつものきみを見つけてしまう
8826 なんでもないふりだけ上手くなってゆく「おはよう」(だめだ少し掠れた)
8825 隣りあい電車を待っていることのその特別を得られる今日だ
8824 三十分なにを話していただろう空とか川とか繋ぎ合わせて
8823 初めての街に降り立つ案内も地図も見なくて歩けるひとと
8822 いまだ手は繋げないまま前をゆく背中を少し早足で追う
8821 海風は冷たく沁みて沈黙のまま手に触れる理由を生んだ
8820 手を繋ぐ、歩く、言葉を交わし合う かけらかけらを奇跡と思う
8819 ほんとうにデートみたいね ほんとうのデートをしつつ繰り返し言う
8818 隣り合ういまを切り取る 海を背に並んでシャッターお願いします
8817 どこにでもいるふたりです どこにもない一日を分け合うわたしたち
8816 ぶらぶらとゆくアーケード繋がれた手ばかり嬉しくってくるしい
8815 何気ないふりの横顔 ポケットの中で静かに増してゆく熱
8814 原色の門をくぐれば溢れ出す波を掻き分けゆく中華街
8813 初めての小籠包の食べ方を教えてくれた人になるひと
8812 ふた口で角煮が消えるバーガーをひと口とひと口ずつ食べる
8811 「あーん」とか言わないけれどこれはそうテレビとかでよく見るあのシーン
8810 こんなことしたくなるものなんですね味覚すら分け合いたいなんて
8809 俯瞰図を指差している午後三時 街がひかりを蓄えてゆく
8808 今日一のふたりの舞台に選ばれた海辺のあかい古観覧車
8807 これまでの日とこれからの日を何も知らずに丸い小部屋はまわる
8806 一周は短い 箱から取り出したひかりが指に収まる程度
8805 薬指ちいさな希望を留め置かれ叶わないこと忘れてしまう
8804 お揃いの細いひかりを纏わせて絡めた指と指のつめたさ
8803 何百回目かわからないくちづけが誓いを孕む空のさなかで
8802 今世では果たされ得ない約束をひとつ零して儀式を終える
8801 誰だって最後はひとり ならばいま余すことなくきみへ微笑む
8800 約束は形じゃないと知りながら微かに重い指がうれしい
8799 別々のホームへ続く階段できらめきすぎる指輪を外す

KohagiUta

Kohagi Chihara|tanka & design|

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