文フリ参加本への寄稿作品

秋の文学フリマで販売された企画冊子3つへ寄稿しました。


『お詠みなさい』

★イラストお題 連作「銀色レンズ」

7067 しあわせな朝の記憶を記録するレンズにそそぐ銀色の秋
7066 改札で七時三十六分の波の向こうに見慣れたスーツ
7065 見つけたらほころぶ顔を知らないで手を振るひとにまたひらく花
7064 あたりまえみたいにゆびは囚われてしずかな南広場にゆれる
7063 隣り合うことは必然なのだろうひとときたりと離れない手も
7062 髪のなかくぐらせる秋のゆびさきをあたためますか頬の微熱で
7061 小さくてたった一度のしびれです心臓に痕を残すくちづけ
7060 一時間きりのあなたを攫うため電車はたぶん正しい きらい
7059 鏡面に立つあのひとはさっきまであなたが髪を撫でていたひと
7058 この朝の記憶をレンズにとじこめて真昼も夜も正しいわたし

★写真お題 連作「温度」

7057 真夜中に熱を孕んで待つ脚の隙間でゔゔゔ呼んでるスマフォ
7056 仕方ないそんなにほしいと言われたら インカメラ持つ角度も慣れた
7055 三角に座るの、膝は立てとくの、どこを写せばよろこぶの、ねぇ
7054 ぱんつかよ脚じゃないのかもういいよ写メの話は白紙に戻す
7053 真っ直ぐな骨のかたちに感謝する遺伝子たちよ、よく頑張った
7052 人間の脚はこんなにうつくしく神の本気を垣間見ている
7051 造形に美を見出だせぬひとだけど枕としての使用許諾を
7050 そんなにも緩んだ顔を命ごと膝にあずけて迂闊なあなた
7049 明け方に月のかたちで閉じられた睫毛がうかぶ眠りのふちで
7048 現実になる日はいつも遠い朝つめたい脚を組み替えねむる


『色彩の子ども』 テーマ:深緋

★連作「隔てる色」

7047 (ジンクスを立証するため)あの赤い観覧車乗りませんかふたりで
7046 真隣にいつでも座るひとだから窓の向こうの夜景だけ見る
7045 もう手にも肩にも触れないでください揺らいでしまう自信ならある
7044 天辺でキスを拒んでおしまいを確定させる星屑の街
7043 さよならを言い終えるためのあと半周 だいすきでしただいすきでした
7042 地上へと降りれば点滅信号が別れを急かす それじゃ、さよなら
7041 赤色は隔てる色で振り向かず飛び込む駅はひややかに白


『Bluesy』 Room Blues

★連作「踏切の部屋」

7040 踏切がやたらうるさい部屋だった癖毛のやさしい狼がいた
7039 ベランダで白煙を吐くひとと鳩、室外機、鳩、灰色の空
7038 灰青の丈が足りないカーテンの隙間に咎めるような夕やけ
7037 親指の形にあぶら残しつつ脱ぎ捨てられる黒縁眼鏡
7036 喉の奥からマルボロを匂わせて深く分け入る薄い舌先
7035 体温と気温と湿度の上がる部屋 しろいね、きれい、きらい、うそつき
7034 魂を溶かし合うだけの遊戯なら何処にも行ける筈のない旅
7033 ひりひりと雨は降る 終わればいつも空っぽで立つ一人のホーム

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